クロールの両側呼吸で泳ぎも体もバランスよく
クロールの呼吸を最初に覚える時、大抵の場合は両側呼吸ではなく、左右どちらか一方のみを覚えますが、それはのちの泳ぎに大きく関わってくる可能性が高くなります。
何がどう関わってくるかを実例を交えてご紹介します。
1.クロールの両側呼吸とは
クロールの呼吸は手をかく時に合わせて、左右どちらか片方に顔が傾く形で行われます。
クロールの両側呼吸とは、左右片方のみで呼吸を行うのではなく両方で行うということ。
もちろん手をかく度、毎回行うわけではなく、何回かかいてその都度横向きになります。
一般的には手を3回かいたら、3回目の手のかきに合わせて行います。
それがクロールの両側呼吸ということになります。
「とりあえず息継ぎできればいいんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、この両側呼吸は、出来るのと出来ないのとでは後々大きく差が出てくることになりかねません。
という訳で、クロールの両側呼吸と片側呼吸の違いについて考えてみることにします。
2.クロールの呼吸
「両側呼吸が出来るに越したことはないけど、片側呼吸でも今は特に問題ないから今のままのクロールがいい」と言われる方は多いです。
提言したいのは「クロールはそれでいいかもしれませんが」ということ。
そこでクロールにおける両側呼吸、片側呼吸、それぞれのメリットとデメリットを考えてみましょう。
1.片側呼吸のメリット
①覚え易い
何となくやり易い方で覚えるわけですから体的にもすんなり入っていき易く、水泳の練習を始めたばかりの方は特にこの方が覚え易いと感じます。
②やり易いからストレスがない
なぜ片側だけなのか、の問いの答えは単純に「やり易いから」という事です。
やり易い=簡単と感じているので気負いなく楽にできるのでストレスを感じずにできるというメリットがあります。
2.片側呼吸のデメリット
①泳ぎのバランスが悪くなり易い
クロールは頭から尾骨、人によっては足先までという方もおられますが、その間に縦の軸が走ってます。
イメージとしては、焼き鳥の串に自分が刺さってて、その串が頭頂部からお尻のところまでまっすぐ刺さってる感じです。
その串に刺さったまま左右バランスよく、同じような感じて横に傾いたり戻ったりしながらを繰り返して泳ぐのがクロールです。
そして呼吸は横に傾いた時に行われる訳ですが、例えば右のみで呼吸した場合、右の傾きに体がなれてしまい、右には大きく傾けるけど左にはあまり傾けなくなります。
傾き加減が左右で違ってくると、腕だけを見たとしても、戻す時の大きさや高さが違ってくるので自ずと戻しにかかる時間が変わってき易くなり、時間が変わってくるとリズムが変わってきて、結果テンポやフォームが崩れ易くなる、という事につながり易いです。
②他の泳法への悪影響が出やすい
左右の傾き加減が違うままの状態を続けると、その傾きの感覚が自然になってきて、左右対称の泳法、所謂平泳ぎやバタフライで正確な水平状態の感覚が取りにくくなり易いです。
少々傾いたところで問題ないと言えば問題ないですが、平泳ぎのルールでは両足と両腕は左右対称且つ同時となっています。
傾いた状態で左右対称も左右同時もできなくはないですが、わざわざそんな面倒くさいことをする必要もないので、とりあえず両肩と骨盤が水平であれば、通常通り行うと自然に左右対称と左右同時が行われます。
バタフライは左右非対称でルール的に問題ありませんが、リカバリー動作は「両腕は水面の上を同時に前方に運び」とありますので、体が傾く癖がついていると両肩の水平が保ちにくく、結果片方の腕が水面上に出にくくなる可能性が出てくるということになります。
③体のバランスが悪くなり易い
必ずしもという訳ではありませんし、週2、3回程度のペースで泳がれる成人の方では特に問題も出ないと思われますが、それでも長期的にみると、やはり体のバランスが悪くなり易いのは否めません。
実際にあった例として、小学1年の頃から選手コースで毎日キロ単位の距離を泳いでいた子供ですが、その子はクロールはいつも同じ側の片側呼吸でした。
そして中学1年の頃に体の不調を訴え、診察の結果、機能性側弯と診断されたそうです。
はっきりした原因は不明ですが、とりあえず同じ方だけで呼吸するのはやめた方がいいようなアドバイスがあったみたいです。
上記のケースでは成長期の子供ということですし、片側呼吸だけが症状の原因という訳ではありません。
しかし無理に片側ばかりを酷使するということは、単純に考えてもバランスが良くなる方向に向かっているとは言えないと思います。
3.両側呼吸のメリット
①効率のいい泳ぎになる
クロールや背泳ぎは左右同時に手足を動かす泳法ではありませんが、左右非対称という訳ではありません。
理論的に言うと、体の傾き加減、水をかく早さ、腕を戻す時の高さ、足を動かす時の強さなど、諸々すべてを左右同じにすれば、少なくとも曲がること無く真っ直ぐ泳げることになります。
それだけでも効率のいい泳ぎにつながることになると考えられます。
②ターンでの息継ぎの時に便利
クロールのクイックターンはターン直前で息継ぎを入れておかないと、ターンやターン後の水中での動きで息がもたなくなり、上手くいかない場合が出てきます。
でも必ず毎回うまい具合に、やり易い側の呼吸ができるとは限らないので、そういう時、両側呼吸が出来ていると、泳ぎのリズムを崩すことなく息継ぎを入れることができ、結果ターンもスムーズにできることにつながります。
③体のバランスが良くなり易い
やはり何と言っても人の生活拠点は陸上な訳ですから、快適に生活できることに越したことはありません。
両側呼吸は文字通り右も左も行う訳ですから、左右とも同じような感じで筋肉や骨などが動くことになり、結果的に体のバランスが整いやすくなると考えられます。
4.両側呼吸のデメリット
①慣れるまでは水を飲んだり、リズムが崩れたりしてストレスが掛かる
これは両側呼吸の練習に限らず、水泳技術の上達を志す人ならあらゆる場面で誰しも感じることなので仕方がないと諦めて下さい。
3.バランスが大切
両側呼吸は絶対的に必要とは申しませんが、覚えておくと全体のバランスも良くなり、何かとお得な方向に向かっていける事がお分かり頂けたかと思います。
水泳を覚え始めた段階では早く上達したいので、つい簡単にできる片側呼吸の練習に走りがちですが、早くから両側呼吸に慣れるようにするとその後の泳法習得に役立ちますし、何より体のバランスが悪くなる方向には向かないことは間違いないと思われます。
泳ぎのバランスを整えつつ、体のバランスも保って、元気に末永く水泳を愛好して頂ければ嬉しいです。
ですので、これから水泳を始めようという方は、最初から両側呼吸で練習されることを是非お勧め致します。
「初めからだとクロールを覚えるのが遅くなるのでは?」と心配される方。
それは大丈夫です。
だってこれから覚えようとしている今、水泳に関しては右も左も分かっていない真っさらな状態なのですから。